健全な不動産賃貸経営を行うために、知っておきたいキャッシュフロー表の作り方

所有している不動産をひとに貸すということは、賃貸経営を始めるという事です。経営ですから、会社と同じようにお金がどのように動いているのか把握しなければなりません。入ってくるお金よりも出ていくお金が多ければ、赤字経営ですし、入ってくるお金から出ていくお金を賄えるのであれば、黒字経営となります。

経営は、入ってくるお金がいくらで、出ていくお金がいくらなのかを把握することが大切です。賃貸経営の現場では、それを一目でわかりやすく把握するために、キャッシュフローツリーというものを作成します。

ここでは、キャッシュフローツリーの作り方をお伝えします。キャッシュフローは、どうしても数字を甘く見てしまいがちですが、ストレスがなく健全な賃貸経営を行うためには、多少厳しく見ることも必要です。どういった項目があるかを知り、各項目の数値を出してみることで、より健全な賃貸経営の第一歩としてください。

キャッシュフローを導き出すための項目

キャッシュフローですから、まず、入ってくるお金(収入の部)と、出ていくお金(支出の部)のふたつの項目に分類します。

収入の部

収入の部には家賃や駐輪場や駐車場などの家賃以外の収入がありますが、家賃は、常に相場のマックス賃料で貸せるとは限りません。貸し出す時期が繁忙期(1-3月)か閑散期(6-8月)かによっても変動します。また空室期間も時期によって異なりますので、リース損や空室損で調整します。

GPI(Gross Potential Income) 年間潜在総収入

保有物件が、その地域の賃貸市場における最大限の市場家賃(マックス相場)で賃貸できた場合に得られる、年間の総賃料収入総額のことを言います。実際に貸している額ではなく、最大限の相場賃料です。

リース損

入居者との契約した賃料が、市場家賃より低い場合に発生する損失。GPIと、現実的に成約しそうな賃料の差です。

空室損

空室によって発生する損失です。空室損には、入居者が決まらない空室、原状回復期間中の空室といった物理的空室の他に、オーナーが自己使用しているため賃貸できない部屋の経済的空室があります。満室経営の場合、空室損をゼロにしてしまいがちですが、予期せぬ退去による原状回復工事の期間も、そこから新しい入居者が決まるまでの期間も空室ですので、ゼロではなく、きちんと数値を入れておくことが大事です。

GPIの5%を見込むことが多いようですが、空室率は地域によって異なりますので、経験の豊富な管理会社や担当者に聞いてみることをお勧めします。

未回収損

滞納などによる、回収が不能な賃料。サブリースや、入居者が保証会社と契約している場合は、未回収はほぼゼロです。

その他の収入(雑収入)

駐輪場や駐車場といった、賃料以外の収入です。

EGI(Effective Gross Income)実効総収入

GPIから、リース損や空室損、未回収損を差し引いた年間の賃料収入に家賃以外の駐車場や駐輪場等の収入を加算した年間収入です。

EGI(実効総収入)=
GPI(年間潜在総収入)-リース損-空室損-未回収損+その他の収入

支出の部

不動産を所有し他人に貸す場合には、貸せる状態を維持していくための運営費や修繕費がかかります。キャッシュフローツリーで用いられる主な支出の項目です。

OPEX(Operating Expense) 運営費

火災保険や施設賠償保険といった保険料、管理会社に依頼する場合は管理業務委託料、固定資産税・都市計画税、一棟の場合は共用部分の公共料金や定期清掃費、消防設備・水道設備・電気設備などの法定点検費用、エレベーター保守点検費用、区分所有建物の場合は、管理費や修繕積立金など、賃貸経営を継続するうえで必要な年間の経費です。原状回復費用や入居者募集時の仲介手数料・広告費もここに入ります。

NOI(Net Operating Income)営業純利益

NOIは、営業純利益。借入を行わないで賃貸経営を行った場合の、税引き前の利益で、実効総収入(EGI)–運営費(OPEX)で求めます。収入から必要経費を差し引いた額ですので、物件の稼ぐ力です。

健全な賃貸経営には物件の稼ぐ力、NOIを上げる方法を考えていくことが大切です。
NOIを上げるには、

  1. GPIを上げる
  2. リース損や空室損を下げる
  3. OPEXを下げる

といった方法がありますが、GPIを上げるには、リノベーション等により、市場家賃より高い家賃で貸せる価値を生み出す方法がありますし、OPEXを下げるには、メンテナンスを繰り延べたり、費用を削減する方法があります。但し、リノベーションは、掛けた費用に比べて効果が得られなかったり、メンテナンスの繰り延べや費用の削減は、質が下がって物件の競争力低下につながり、空室率が上がることもありますので、バランスを考えた施策が必要です。

NOIを上げる方法は、物件ごと、地域ごとに異なりますので、経験豊富な賃貸管理会社や担当者に相談し、バランスの良いキャッシュフローツリーを組んでいくことが大切です。

借入を行った場合の支出の部

ここから見ていくのは、借入をして物件を購入もしくは、借入をしてリフォームなどを行った場合の収支項目です。NOIから差し引く項目です。

ADS(Annual Debt Service)年間債務返済額

ローンの元金と利子の年間支払額です。

BTCF(Before Tax Cash Flow)税引き前のキャッシュフロー

BTCFは、営業純利益(NOI)-年間総返済額(ADS)で求められます。営業純利益から総返済額を差し引いた額ですので、収支上の手元に残る額となります。

キャッシュフローツリーで分かりやすく

これらの項目を上から順に書いていき、以下のようなキャッシュフローツリーを作ってみましょう。

物件の稼ぐ力と投資家の判断

GPIからNOIまでは、物件の稼ぐ力となります。

投資家の判断とは、資金調達についての判断です。ADSは、金融機関の融資条件によって変わります。キャッシュフロー重視、資産化スピード重視など、投資家の判断によって変えられる項目です。

キャッシュフローツリーは、投資判断をするための最初のステップです。まずこのツリーを作成し、CCRやFCR、K%、DCRといった指標を用い、運用効率や安全性、健全性を判断していきます。

きっちり正確な数値を予測することは難しいことですが、より現実に近い数値で予測することは、賃貸管理の経験を積んだプロであれば、そう難しいことではありません。

新たにキャッシュフローツリーを作成し、ご自身の所有している物件の経営状況を把握しようとするのであれば、経験豊富な賃貸管理会社もしくは担当者に依頼することをお勧めします

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